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一日ぶらぶら、そして超法規的措置

その日は休日であり、
午前中は所用があるわけではあるが、
午後は仕事から戻る妻と駅ビルで待ち合わせをする予定があるだけで、
つまりは暇な一日になる予定であった。

ところが、
午前の用事をこなしながら、
一年ほど前からSkype等で連絡を取るようになったKN氏(仮称)に
「18時頃妻と合流するまで暇潰しに○○駅に来ませんか」
というメールを送信したところ、
何だかんだといいながら来てくれることになった。

これで暇をもて余すこと無く生活を送ることができそうだ。

ちなみに、ノコノコ出てくることになったKN氏
妻より十四歳も若い未婚の女性である。



さて、午前中の用事は車のディーラーで不具合の修理である。
我が家のコルトラリーアートVersion-Rの持病なのか、
パワーウインドウの開閉時に異音がなるのだ。

今までも二回直してもらったが相変わらず再発したので、
改めて修理を頼むことにする。

同時にミッションオイルも交換してもらった。
走行距離は9400キロを超えたところなのだが、
二回目の交換くらいまでは早めに済ませたかったので交換した。
お陰でギアの入りが良くなった気がする。

「シフトがサクッと入るようになった、ワーイ」

と、快調に家に戻ったのだが、
途中でミラーを擦りました。

コルトラリーアートVersion-R ミラーこすり傷

いつもは通るのを避けていた細い上り坂を進んでいるとき、
電信柱をうまく避けたはずが一ミリほど足りなかったようだ。

涙をこらえて次の予定の準備をしよう。



某駅ビル内の改札でKN氏と待ち合わせ、
家電でも見て歩くことにする。

店員さんから見れば新婚さんが家電を探しているように見えるだろうが、
実際はただの暇潰しである。

なんで二人で炊飯器など見ているのか、
自分でもよくわからない。

しかし…、彼女は音響機器なんかには興味がないらしい。
どうやればそっち色に染められるだろうか。

色々説明をして興味を持たせてみようと思ったが、
まるっきり興味がないようなのであきらめた。



それはそうとして、落とし物を拾った。

その駅ビルにあるドトールの前にテーブル席がいくつかあるのだが、
そこで一休みしようと立ち寄ったところ、
空いているように見えたテーブルの一つに青い手帳のような物体がのっていた。

はじめは席を確保するために置いてあるのだろうと思い放っておいたのだが、
となりのテーブルについて五分しても持ち主が現れない。

同じように空きテーブルを探す人が来ては
訝しげな目でそれをみて立ち去ったりもしている。

忘れ物らしいと確信した頃、
ご年配のかた二人が席を探しに来て困っていたので、
忘れ物らしいという話をし、
警察に届けるので一旦預かると伝え、
青い物体が占拠していたテーブルを解放した。

手に取ってみると、
置き去りだった青い手帳のような物体は二つ折りの財布だった。
紙幣が数枚入っているのが見える。

中身を確認すれば持ち主がわかるかもしれないが、それは交番で行いたい。

といってもまだ休憩中、しばらくはここにいるつもりだ。

万が一持ち主が戻ったときに気がつくように、
テーブル上に出したままKN氏と雑談を続けることにする。



KN氏にドコモのSIMカードを借りてSH-12Cのアップデートをしながら、
さらに20分ほどしても持ち主らしい人は現れない。
もうしばらくで妻も駅ビルに到着するはずだ。

「じゃあ、そろそろ警察に行きましょうか」
なんだか嫌な響きの言葉だが、
警察に足を運ぶことにする。



駅の最寄りの交番に着いた。

「誰もいないじゃないか」

人気がない。
ニンキが無いのではなくヒトケが無いのだ。

あるのは、テーブルと椅子が6脚、内線らしい電話に防犯カメラだ。

カメラに手を振っても誰も来ないだろう。

よく見ると、
誰もいないときは内線○○番で呼んでくれ
という類いのことがかかれている。

KN氏にかけさせるのも可愛そうなので電話を掛けてみる。

しかし、どこにかけてるのか解らないこの電話、
なんてかければいいのだろう。

てるるるるー

……

隣の交番から警官が来てくれるらしい。

巧みに本来のこの交番の担当者は、
なにがしかの事件の対応で離れているらしい。

隣の交番から何分かかるのだろうか。
何分くらいで着くとか教えてくれると助かる。



ここは駅前交番。
通行人の視線が気になる。

待っているうちに妻が駅に到着した。
事情は伝えてあるので交番に来てもらった。

警察官不在の交番で談笑しながら待つ三人組。
通行人はなんだと思うだろうか。



結局20分ほど待ったところでインサイトのパトカーが走ってきた。
車からお巡りさんが一人降りてきた。

事情聴取の始まりだ。

拾得物は青い財布。
中には現金が二万円以上出てきた。

免許証の類いは無かったが、
レンタルビデオ店の会員証などが数枚あり、
どれにも同じ女性の名前が書かれていた。
○○ ○○子、筆跡も似ているしこれが本人の名前だろう。

他にはこれといったものは入っていない。
銀行のカードもクレジットカードも無い。

落としても損害は大きくないか。

そうしているとき、
交番の入り口が開き一人のお婆さんが入ってきた。

落とし主が現れたのか。
「駅前の盆踊りは今日あるのかねぇ」

全然違った。

たしかに駅前で太鼓の準備などしていた気がするが…、
交番でそんなこと聞かなくてもいいじゃないか。

と思っていたら、
30代くらいの夫婦とその子供が入ってきた。
今度こそ落とし主だろうか。

「□□神社ってどうやっていけばいいですか」

また全然違った。
道を警察で聞くなとは言わないが、
家族がいるなら道案内できるように準備してから出掛けたい。

しかし、入り口を開けて開口一番自分の用件を言うとは、
どういう教育を受けて来たのだろう。
せめて「お忙しいところすいませんが…」くらいで始められないのだろうか。

そうしているうちに拾得者情報も提供し終わった。
拾得物の確認もできた。

あとは落とし主が見つからなかったときの話を聞けば終わりだろう。

と思ったらまた交番の入り口が開いて若い女性が入ってきた。
財布を落としたらしい。
青い財布らしい。
駅ビル内のドトール付近で落としたらしい。
名前は○○ ○○子と言うらしい。

なんかどこかで聞いたような話だ。

お巡りさんが例の青い財布を見せると、
それが落とした財布だと言う。

…落とし主が現れたらしい。

法律上、落とし主が三ヶ月間見つからなければ
落とし物は拾った人のものになるはずだ。
それが、三時間も経たないうちに見つかってしまうなんて…。

お巡りさんが説明を始める。
こちらが拾われた方で……。

纏めると、
「本来はきちんとした手続きを経て本人の元に落とし物が帰るのだが、本人同士の確認もできたようだし、
遺失物台帳を持ってくるのも忘れたから書類は作らずに、まあ超法規的措置で処理したいけどどうですか」
ということだ。

特に依存はない。
台帳を忘れてきた言い訳のようでもあるが気にしない。

問題のお礼だが、
法律上は落とした現金の5〜20パーセントの額であり、
今回もそれに習って示談で決めてほしいらしい。

「ああ、要らないです」

久しぶりに交番に来てなにかと楽しめたので、
お礼は頂かないことにする。
KN氏も依存はないはずだ。



お巡りさんは満足げにパトカーに乗り込み、
落とし主はペコペコと何度も頭を下げながら人混みに消えていった。

うむ、今日はKN氏のおかげでいい暇つぶしができた。
今度1億円を拾ったとき一割お礼をもらうためのリハーサルにもなった。

私も帰路につくことにしよう。

■ 2011年9月12日 ■ inserted by FC2 system