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沈黙の豚骨

私はそれが目の前に出てきたとき、思わず息をのんだ。
その豚骨ラーメンは今までの豚骨ラーメンとは違う何かをもっていた。


そのラーメンを出す店に遭遇したのは、
本当に偶然だった。

とあるデパートの地下。
いつもは全く通らない、様々な料理店の並ぶレストラン街。
その一角に、このラーメン屋は存在していた。

その店の前にはショーケースがあり、
中にはカウンターとテーブル席のあるような
どこからどう見ても何の変哲もないただのラーメン屋である。

その店には、主に醤油ラーメンと豚骨ラーメンがあり、
私は辛ネギ豚骨ラーメンという、
豚骨ラーメンの上に辛そうなネギが大量にのったラーメンを注文した。


店主は、慣れた手つきでそのラーメンを作り、私の前に出した。

立ち上る湯気。
唐辛子で真っ赤になったネギ。
濃厚そうな豚骨スープ。
太めのややちぢれた麺。



そして、放たれる臭気。


それは、思わず店員の顔を伺い、
「本気か!?」と聞きたくなるほどの臭気。

豚肉のすべての臭みをギュッと凝縮させたかのごときその臭いは、
スーパーカップ豚骨味の調味油を、
食べる直前にかけたときの それ を凌駕するほどの激臭である。

ラーメンとか、ネギとか、唐辛子とか、そういった類の臭いではない。

豚のくさいところだけ集めました♪
といわれても納得できる程度のにおいである。


しかたなく、
匂いは慣れる。 においは慣れる。 ニオイは慣れる。 …
と自己暗示をかけつつもラーメンをすする。

そして、食べ終わる頃にふと気がつく。

死ぬほどの臭気にもかかわらず、リピーターが来ている。
彼らはきっと、
この臭さに病み付きになったのだろう。

フセイン大統領の次男
(あまりの臭さに病み付きになった客の一例)


私はそうならないうちに店を出ようと思った。

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