あれは高校生の頃だった。
ある夏の、お昼過ぎの出来事だった。
いつもより風の強い日であったことを覚えている。
その日、私は高校で何かの集まりがあったため、
校舎の1階の … 職員室の下の階であろうか …
倉庫やらのある場所で待機していた。
何のためにそこに集まって、
何のためにそこで待機していたのかは、
今となっては覚えていない。
ただ、ちょうどそこへ、
PTAの方々と思われるご婦人数名と、教頭先生とが通ったのだ。
校内の説明をしているのだろうか。
教頭先生が先頭となり、なにやらご婦人方へ説明をしながら歩いている。
特にすることなく待機していた私は、
わらわらと通り過ぎていく集団をボ〜と眺めていた。
そこは、”中庭から運動場へ抜けるための通路”と
廊下とが交差する場所の脇であり、
交差する箇所では、外からの風がそのまま通り抜けていく構造となっていた。
その通り抜け部分を、
教頭先生とPTAの方々とは集団のまま通過しようとしていた。
いつもより風の強い日だった。
やや強い風が廊下を吹きぬけた。
その刹那、七三分けであった教頭先生が、
一九分けになった。
7のうち6が、反対側に移動した。
音もなく、スパッと。
先頭を行く本人は気がついていないが、
PTAの皆様の視線は教頭先生の頭部に注がれている。
教頭先生らは、そのまま校舎の角を曲がっていってしまった。
教頭先生の今の状態を、
誰か教えてあげられる人間はいるのだろうか。
教頭先生の「頭」の状態を「教」えてあげて。
2分ほどして、彼らは同じ角から戻ってきた。
教頭先生はにこやかに会話を続けているが、
頭はあの瞬間のままの形だ。
ご婦人方の中には、笑いをかみ殺している人がいる。
彼らは、運動場への道を再び通過した。
いつもより、風の強い日だった。
ご婦人方が見守る中、髪は七三分けに戻った。
教頭先生は先頭を歩いているため、
後続が笑いをこらえるのに必死であることには気がつかない。
彼らは、はじめに現れたところへと消えていった。
■ 2008年9月15日 ■