10メートルほど向こうに居る男たちが手を上げて私を呼んでいる。
見た事もない三人組の男たちだ。
新宿の駅構内で、その三人組の男たちは
私を呼んでいた。
その日、私は大学へ行くために電車を使い新宿に来ていた。
家から徒歩で最寄駅に行き、そこから電車で一時間以上かけて新宿に来た。
朝のラッシュが多少過ぎたくらいでは座席に座れるわけもなく、
ただひたすらゆれる電車内でつり革を握り締めていたのだ。
そんな私を彼らは呼び止めた。
おーいだか、はーいだか、こっちですよだか知らないが、
彼らは私の前に立ちはだかり、私を呼び止めたのである。
彼らは一様に同じ服を着ていた。
気温が30度を軽く超えているにもかかわらず、
全員長袖長ズボンで、作業員のようなチョッキまでも着ている。
そしてその服は青に統一されていた。
服装から彼らの職業を考えると、たいていの人はこの答えを出すだろう。
ポリスメン
そう。彼らは警察官らしい。
彼らは日本の治安を守るために日々努力をしている、
日本の治安維持部隊である。
その警察官が、なぜ新宿で一般市民に絡んでくるのか。
答えはいとも簡単に導かれた。
ポリスマンA:「こんにちは、警察です。
職務質問させてもらってもいいですかね」
彼らは日本の治安を守るものとして、私に職務質問をかけたいらしい。
この忙しい時間に職質なんかで時間をつぶしている暇はないのである。
タイム・イズ・マネー とはよく言ったものだ。
「はぁ、どーぞ」
あんな事やこんな事を言ってみようかと思ったが、警官には逆らえない。
ポリスマンB:「最近通り魔とかが増えてるから、
持ち物の検査をさせてもらってもいいかな?」
最近刑事ものの小説なんかを読んだりしているが、
それらに出てくる職質の手順と大体同じだ。
たとえくだらない小説でも読んでいて損はない。
「はぁ、どーぞ」
下手に口答えをして連行されてはかなわない。
ポリスマンC:「ナイフとかそういうもの
持ってませんか?」
笑いをこらえるのに一苦労しそうな気配が漂ってきた。
どうしよう。
「いや、持ってません」
なすがまま、きゅうりがぱぱとはよく言ったものだ。
言われるままが一番であろう。
とりあえずポケットの中身をだして見せ、
外からポケットをぽんぽんたたかれたりした。
しかし、ここで「キャー」と悲鳴を上げれば、
私の勝ちであったかもしれない。
何がとか言わない。
ポリスマンB:「かばんも
確認させてもらっていいかな?」
ビク!
「ぇあ、どーぞ…」
大変だ、
かばんには何も面白いものが入ってないではないか。
もう少し緊張感がほしい。
なんだねこれは?といわれるようなものを入れておけばよかった。
なぜ前日にもらったマイクロメーターを入れたままにしておかなかったのだ。
いやに怪しい箱に入っていたのに。
…かばんからは何も出てこなかった。
それにしても
びっくりするようなものが出てきたら
ドッキリだろうとおもったりおもわなかったりしつつも、
なぜ自分が職務質問を受けているのかを考える必要がある。
新宿駅は一日に何万という人が利用する世界でも最大級の駅だろう。
私が通った時間も朝のラッシュが終わり始めたころだ。
通行量はかなりある。
その中で私が職務質問をかけられている理由は何だ。
職務質問にかかるには、まずは警官の不信感をあおらねばならないはずだ。
・挙動不審な動きをしている。
・警官が居るのを見かけて道を変える。
・人相着衣が怪しい。
・通り魔の目撃情報とあっている。
これらの中の何かで、警官に不振人物とみなされたのだろう。
もしかしたら、運悪く通り魔に似ているのかもしれない。
ポリスマンC:「そこは自分で破いたんですか?」
「いや、破れたんです」
警官の指差す先には私のズボンにあいた穴があった。
横に10センチほどのながさで、ひざ上5センチあたりに開いた穴だ。
位置はちょっと違うが両足にあいている。
このズボンはだいぶ長く履いているため、生地が弱くなっているのだ。
電車に乗っているときに座席に座り、
布が突っ張るのを直そうとしたらドバァと開いたのだ。
穴の開いたズボンが好きなのではない。
このズボンは履き心地がいいから
多少破れても涙を呑んで履いているのである。
しかし、これでわかった。
彼らが私に職務質問を欠けた理由。
それは、ズボンに開いた穴だったのだ。
迷彩色のズボンに黒いTシャツを着ていて、
黒い長袖のシャツを着ているだけなら問題なかったはずだ。
…たとえ真夏でも。
そうに違いない、ズボンに穴が開いていてはいけなかったのだ。
これでまたひとつ賢くなれた。
ありがとうポリスメン。
ポリスメン:「ご協力ありがとうございました」
「………(一昨日キヤガレ)」
次にあったときは今回の教訓を生かし、警察手帳を見せてもらおう。
そして任意なら拒否できますよねといって通り過ぎよう。
人間は学習する生き物である。きっとできる。
いやいや、ズボンの穴をふさごう。(予定)