以前、ツイッターでこんな内容のツイートを見かけた。
「今回のエボラは爆発的流行ではあるが,ちゃんと計算さすると再生産数は約2。麻疹の再生産数は20。20人が乗ってるバスにエボラ患者が1人いたら感染するのは2人,麻疹患者が1人いたら全員感染する。そういうもんです。だから麻疹ワクチンはできれば打っていただきたい」
これを見て思った。
再生産数と言うのが正確に何を指すのかは知らないが、
20人乗りのバスを例に取ってエボラ出血熱2人で麻疹は20人に感染するというのは
いくらなんでも暴論だ……と。
もし、バスが40人乗りだったらどうなるのだ。
感染者数は倍になるのか、
それとも変わらないのか。
2万人が入ったコンサート会場だったらどうなるのだ。
ちょっと考えただけで、バスの例は再生産数の意味を取り違えた解釈である事が明らかだ。
少し気になったので、まずは再生産数について調べてみた。
そもそも用語がちょっと違って、まずこれは基本再生産数と言うらしい。
インターネットでちょろっと調べたところ、以下の様な物が上がった。
「一人の感染者から感染して発症する二次感染者数の平均値。」
「1人の感染者が周囲の免疫を持たない人に感染させる(=再生産する)2次感染者の数。」
「基本再生産数(R0)は,以下の式で求められる。R0=β×κ×D (βは1回の接触当たりの感染確率,κは時間当たりの接触頻度,Dは感染性を有する平均期間を表す)」
なるほど。
大雑把に言って一人の感染者から発生する新規感染者数の事で、
ウイルス等に耐性のない集団に対してどの位の感染力があるかを統計的に導き出した数値のようだ。
当然感染期間全体であって、
また耐性のない人の数(母数)も組み込まれていない。
これは耐性のない人の集団内を泳がせておいたらこうなると言う値であって、地域などで異なるものだ。
話を戻して麻疹の基本再生産数だが、これは確かに20人程度のようだ。
一般的に感染者からは耐性のない20人程度に感染するということだ。
バスに20人乗っているからと言って全員に感染するわけではい。
バスに乗ったり仕事をしたり街を歩いたりしているうち、
周りが耐性のない人だけならば耐性のない20人に感染するのだ。
一人から20人。
あっという間に感染拡大してしまうではないか。
と言っても実際にそこら中に麻疹患者がいるわけではない。なぜか。
理由は簡単だ。大多数の人には麻疹への耐性がある。
耐性がなかった場合に感染するであろう20人のうち19人に耐性があれば、感染者は1人だ。
一人の感染者から一人の感染者が出るだけならば
結果的に麻疹感染者は増えない。
耐性がある人が19.1/20人ならば、いずれ麻疹患者は居なくなる。
基本再生産数とはそういう意味の値なのだ。
こんなことはちょっと調べれば分かる。
まあ、Twitterのバスの件は誤りである。
言うなれば、「旅行に行くと20人友達ができる」という人が居たとして、
「じゃあ20人乗りのバスに乗ったら友達が20人できるのね」と言うような暴論だ。
例に上げたツイートでは、
麻疹患者がバスに乗ったら全員に感染させる勘違いされてしまう。
これは麻疹患者への差別や偏見に繋がるものだ。
統計やら確率やらを勘違いして使う事で重大な人権侵害を招くこともある。
無知は……と言われるのも無理はない。
■ 2015年1月12日 ■