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強制入会

とある駅ビルでの出来事である。

その駅ビルでは二ヶ月ほど前から
二階〜四階にかけての全フロアの改修工事を行っていた。

何のための改修なのかはよくわからなかったが、
リフレッシュか何かの意味で行っているのだろうと思っていた。


そして改修工事はすすみ
二階と三階のフロアが四階に先駆けて開店した。

開店初日、たまたま其処を通りかかったので中をのぞいてみたが
そこには驚くべき光景が広がっていた。

其処はまさに戦場であった。

目を血走らせ商品をあさる主婦、対応に追われる店員たち、
安いのか適正価格なのかわからない超安物が 所狭しと並び、
入った瞬間にやばいと思わせる濃度のホルムアルデヒドが歓迎する。

彼らの目が血走っていたのは物欲のせいだけではないはずだ
急性シックハウス症候群に違いない。

ひいおじいさんも
「腐海にだけは、入ってはならん」
と言い 果てたので
はかなくも その日は早めに退散した。

それ以来、その駅ビルによることは敬遠していたが、
いつの間にか四階も営業を始めたようなので よってみることにした。

四階にはエスカレーターを使って行く。
改修前は四階に日用品店と本屋があり、
その本屋ではよく本を買っていた。

改修後にも本屋があれば 一冊くらい買って帰ろうかと思い
エスカレーターに足を踏み入れた。

エスカレーターを上る途中、進行方向右側であるが
ふと目に入る物があった。
なめらかな曲線を描く金属の物体と、
その物体で何かをしている人物たち。

筋トレのマシンのような物とエアロバイクなどであった。
フィットネスマシンの展示か販売かを行っているのだろうか。

しかし、その考えは一瞬にして打ち砕かれた。
エスカレーターを降りてすぐの場所に7人ほどの店員が陣取り
なにやら合図を送ってくる。

彼らの目はこう語っていた。
「いらっしゃいませ、会員様はこちらへどうぞ」


エスカレーターを上った先で待っていたのは
会員制のスポーツジムであった。

エスカレーターは当然一方通行であり、
下りのエスカレーターは反対向きに設置してある。

これは罠であった。

上ったら引き返すことの出来ない階段の先にスポーツジムのロビーがあり、
7人もの人員が会員受け付け用のカウンターに案内するのである。

彼らはこのエスカレータートラップにより
労することなく莫大な資金を得ようとしているのだろう。

私は、そんなエスカレーターに足を踏み入れ、
何も気がつかないままに半分以上も上ってしまったのである。

あまりのおぞましさに冷や汗が出たが、
この汗を心地よい汗に変えて反対側のエスカレーターから降りるつもりは
全くないのである。


死ぬか生きるか
選択肢は一つである。
殺られる前に殺れ。

私はエスカレータをおり、店員に向かって歩き始めた…。



そして店員を無視して奥の階段から下に降りたらしい。

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