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国際福祉機器展にて

先日、会社の取引先の方から
国際福祉機器展の案内はがきをいただいた。

国際福祉機器展、それは各種の福祉機器が一同に集まる
福祉機器界のモーターショーのようなものであり、
国際展示場、つまりは東京ビッグサイトで開かれる国際的な展示会である。

仕事と関係のある分野であるし、個人的な興味もあったため、
何とか時間を作り訪れてみることにした。

ただ、ひとりでこういうところに行ってみた場合
なんとなく短時間で帰ってしまう危険が考えられる。

今までの経験上こうなる可能性は高く、
半日無駄に浪費してしまわないか非常に心配であった。

ところが、行く数日前になった頃、
機器展に行ってみたいという人が現れた。

掲示されていた福祉機器展の案内はがきを見せたところ
その人も前から行きたかったということが判明したのだ。

「折角だし一緒に行きますか〜」と言うことで
一緒に機器展を見に行くことになった。

二人で行くことで、着いて早々ふらりと帰ってしまう可能性はなくなる。
とっても良いことだ。

しかし、さほど深い意味はなく二人で行くことになったが、
一緒に行くことになったこの方は同じ職場の30代の女性であり、
今までも何度か独り言に登場している方でもある。

この年代の人と出かけることはあまりないので
どういう対応で行けばいいのかまったく分からないが、
まあ何とかなるだろう。
問題に直面したらそのとき対応策を考えればいい。

□ □ □

そんな感じで福祉機器展にいく日になった。
朝から天気が良く、気温も程よくすごしやすい陽気だ。

徒歩と電車で落ち合う場所に向かいながらも、ふと思う。

「あの人とは、それほど会話したことないような気がするなぁ。
よく知っている気もするのに実はまったく知らないぞ…」


思い出してみれば何度もあっている気はするが、
確かにあまり会話をした記憶がない。

ろくに話をしたこともないのに半日以上一緒に行動する。
性格もよく分からないしすごく緊張するぞ…。

待ち合わせ場所に着くと、その人はすでに来ていた。
もしかしたら律儀に30分くらい前から来てたかもしれないなと思う。
でもそんなことは言わない。

一緒に行くことになった人は、
いつものイメージどおりの服装で来ていた。
飾らない感じが好印象だ。

と書いたら誉め言葉になるだろうか。

その一緒に行くことになった人は…。
…なんか呼称が長いな。
短い呼び方に統一しよう。

夏目漱石の著作に「こころ」と言う小説があるが、
その中にこういう一節がある。
「我が輩は猫である、名前は先生だ。」
名文である。

これを借りて、この先は彼女を先生と呼ばせていただく。
これは世間をはばかる遠慮というよりも、
その方が私にとって自然だからである。

さて、
国際展示場には電車を乗り継いでいくことになる。

先生はいままで国際展示場に向かう際、
最寄り駅から京浜急行で品川に行き、
JRに乗り換えて新橋に向かい、
ゆりかもめで国際展示場正門に行く〜という方法が多かったらしい。

この方法は歩く距離は短いかもしれないが運賃が高い。
よって今回は京急で横浜に向かいJRに乗り換えて大井町に行き、
りんかい線で国際展示場に向かう方法にしようということにした。
ちょっと歩くことになるが運賃が安くてよろしい。

でも先生は歩く距離が短い行き方の方がなんとなく好きそうだ。

京浜急行で横浜に着き、
JRに乗り換え大井町に向かうときの電車内で
先生がこんなことを言う。

「大井町は品川の次ですね」

電車内の停車駅案内を見ての発言らしい。

「(図の)右から左に進んでるから…、
品川のひとつ前が大井町ですね」


無難なつっこみをしてみた。
先生は素で間違えたらしい。
ここで先生を天然ボケキャラだと判断することもできるが、
それはあまりに早計だろう。

その後の話で先生は、それほど深く考えないで進んでいって、
軌道修正しながら目的地に着くタイプだと言うようなことを言っていた。

きっと品川を通らずに大井町についても気にしないのだろう。
物事に柔軟に対応できる実力がなければこの生き方はできない。
先生の名前があらわすようにしぶとく生き延びるタイプなのだ。

大井町で改札を通るとき、
改札機に前を行く先生のスイカの残高が表示された。
5桁入っていた。
運賃を気にしない理由が分かった気がした。

国際展示場駅に着き会場まで歩く際、
先生にショックだったことの話をしてみた。

その話に対する先生のコメントで、
今まで自分が先生から実際とは違うイメージで見られていたことが分かった。
今までそんなイメージで見られていたのか…、と思った。

そんな困難を乗り越えながら無事に国際展示場に着いた。
ビッグサイトに入るための案内はがきは以前に先生に渡してある。
はがきを見せることで簡単に入場できるのだ。

しかし、先生はそれを大切に家においてきたらしい。
仕方がないので1枚はがきを渡した。
いざというときのために持ってきた予備が役に立った。

会場入り口では、はがきと交換にワッペンというかシールをくれた。
服に張り付けて使うもので、来場者の所属を大ざっぱに記したものだ。
行政、福祉団体、介護施設、一般などの分類があるようだ。

会場内では、会場の職員らにそのワッペン見られ
扱いを露骨に差別された。
というか対象の違う商品を正しく宣伝しているようだった。
会場の入りは上々で、
年代・性別・障害の有無を問わず様々な方が来場していた。

私はみたいポイントが数カ所決まっていたので、
先生を何となく誘導しながら会場を回った。

ところどころバーゲンセール会場状態になっているところもあり
そんなところは先生に任せたりもした。
役割分担をうまい感じでやるとこういう会場ではうまく立ち回れるのだ。

そんな感じで色々なブースを巡り、
製品につっこみを入れたり、
アドバイスをしてみたり、
バグレポートをしたりしてあっと言う間に時が流れた。

途中先生は何度か行方不明になったが、
ちょっと探すだけですぐに見つかった。
地味に存在が目立つらしい。

会場には11時ごろ到着したが、
長々と内部を観察しているうちに
閉館時間の17時になってしまった。

途中で昼食を取ろうと思ったが、
各地で混雑が見込まれるため後へ後へとのばしているうちに食べ損ねた。

おかげで休憩も無かったため、
閉館とともに会場すぐ脇のベンチのところで
休憩を兼ね先生と機器展の話などをした。

老人介護の将来に関してや、
高齢社会と国家の存亡についてまで話は広がった…
という記憶はない。

話をしながらふと見ると、
早速機器展を片づける為の方々が現れ、
足場を組み始めた。

そんな彼らを見ているうちに先生がふとこんなことを言った。

「女性も居るんですね」

どうやら足場を組んでいる方の中に女性が居るらしい。

しかし、目を凝らしてみてもそれらしい人はいない。

「青いヘルメットの人が女性でしょう」

青いヘルメットの人はひとりしか居なかったが、
男性に見える。

「体つきが女性でしょ、腰から腿の周りなんかを見れば分かると思うけど」

よくよく見てみると、
確かに足はほっそりしているし、
ズボンもジーンズをすねのあたりで
折り曲げていたりして女性っぽい。

ただ、上半身や顔つきが男性に見える。

「そういうところの違いがまだ分からないのかなぁ」

行きに歩きながら話した「ショックだったこと」で
男女の判断が出来なかったことについて何かを引っ張っているらしい。

「仕事なんかで年に1000人も2000人も見てきたから、
人を見れば大体どういう人か分かるんですよ」

確かに一回は男女を間違えたが、
前回の人は言われてみると女性だと言うことがよく分かった。
ただ今回の人は言われても女性だとは思えない。
どんな角度から見ても男性に見える。

男女の判断が付かないことがこんなに頻繁にあるのか…と、
ちょっと悲しくなった。

足場を汲み上げ、
それを移動させながら彼らが近づいてくる。

やはり男性にしか見えない。

声が聞こえてきた。
男性の声にしか聞こえない。

「どっからどう見ても男性に見えるんですが…」


「…、男性だったね」

近くで見てみると、
誰がどう見ても男性でした。
遠くから見たイメージと同じ男性でした。

普通なら性別の判断くらい遠目に見ても出来るのに、
あの時は近くで見て話をして5回も会っているにも関わらず
そんな概念すら浮かばなかったのがショックだと言う話なんですよ。

休憩も終えて、
帰る途中にどこかで夕食を食べることにした。
あまり他人とは外食しないので何を食べるかすごく迷う。

先生曰くパンはお菓子のようで食事のような気がしないらしいので、
ご飯系のお店を探す事になった。

なんとなく、会場付近では混んでいそうだったので、
帰りの電車の乗り換えついでに大井町でお店を探すことにした。



大井町の駅付近を色々と探し回った結果、
なぜかイトーヨーカドーのレストラン街で食事することになった。

数あるお店の中から先生はトンカツのお店を選んだ。
高いからイヤだなんて事は言ったりしない。
ヘルシーと読むが地獄シーと書くようなとんかつでないことを祈りたい。

気を使って深読みしすぎた可能性もあるし、
先生の決断力に任せよう。

外でトンカツを食べることはほとんどないが、
そこの店はチェーン店のような味だった。

まずくはないが面白味もない。
ソースが市販の物を混ぜただけのようだ。

そんなトンカツ屋でも雑談を色々とした。
原油の高騰と生活用品の値上がりや、
それに伴う環境負荷の増減などの話がメインの話題だった
なんてことはない。

そこでの雑談で先生の人物像がだいぶよく分かってきた。

先生は1週間に二日くらい働いている職場でも、
毎日居ると言われることがあるらしい。

他にも、
知り合いが先生を他の人に紹介する際など、
「あれ、どんな人だっけ…」と思われることが多いらしい。

そして、仕事の話は良くするが、
ちゃんと聞き出さないと個人的な話はあまりしないようだ。

よく分からないが
きっと愚痴を聞かされたり相談されたりすることの多いタイプなのだろう。
安心・安全なオーラが漂っている。

そんな感じで長々とトンカツ屋で話をし、
のそのそと店を出た。

先生とは今までほとんど会話らしい会話はしたことがなかったが、
今日の色々なコミュニケーションを通じ先生の人物像がよく分かった気がする。

「くだらないギャグに弱い」

今日一日で分かったことはそれだけかと言うツッコミは無しだ。
こんなところで先生の性格判断を公表してもしょうがない。
プライバシーの保護という厚い壁があるのだ。

その後もなんだかんだと遠回り(?)な帰り方をし、
私の家の最寄り駅でまたちょっと話をしてから分かれた。
その時刻21時45分くらいだ。

もう少し無駄話をするのも楽しいかと思ったが、
あまり帰るのが遅くなるのもアレだろう。

また次回のお楽しみということにして別れた。

今日は結果的に1日中先生を引っ張り回してしまったが、
先生のおかげで休みの日を満喫できた気がする。

すばらしいことだ。うむ。

機器展では色々なカタログやらパンフレットをもらった。
今後の人生の参考になりそうな物ばかりだ。

来年も行けそうなら行ってみようと思う。

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