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人体の不思議展

人体の不思議展。
そこには人間標本が展示されている。

模型ではなく、標本である。

標本、つまり本物の人間を加工した物が展示されている。

この展示会に、以前行ってみた事がある。

別にグロテスクな物に興味があるわけではない。

人体模型ではわからないような、
実物にのみ存在するであろう「何か」を見てみたいと思ったのだ。


展示会場には、人間の標本がいくつも並んでいた。

入り口では手始めに、手や足の標本が並んでいた。

皮膚は除去してある。
皮下脂肪も除去されており、
腱や筋肉、骨がそのまま露出している。

筋繊維をひとかたまりずつほぐした標本もある。
人間の手足の筋肉がよく分かる。

本物なのか…?と思うほどに生命を感じさせない標本である。
その標本の作り方であるが、それも紹介されている。

簡単に言えば、脱脂、脱水をして、代わりにシリコンを充填するようだ。
そうすることで、標本は半永久的に「もつ」らしい。


半永久的存在となった彼らだが、
その肉体は、生前の彼らの意志によって提供された物であるらしい。


標本には全身の物もある。
頭からつま先まで、きっちりと皮を剥かれている。

しかし、さほどグロテスク感はない。
ビーフジャーキーのような質感が生々しさを消しているのかも知れない。

思わず見入ってしまう物ばかりだ。


心臓ってこんなに大きいんだ…。
あれは肝臓だとして…、これはナンだろう。
あの空間は食道で…、これが胃で…、これは何だ…?

輪切りにされた人体を見ても、いまいちどの部位かわからない。


標本には、大まかな題名はあっても、細かい説明は付いていない。

具体的な部位の名前や、その説明がないのだ。

人体の血管のみを特別な方法で残した全身血管標本。
口から大腸までを並べた標本。
人体を縦や横にスライスしたカット標本。

どれもこれも、作った標本がそのまま並べられている。

「今までは見たことはないけど、知識としては知っている人体の内部を、
ちょっと乾燥しているけど本物の人体として見ることが出来た」
そんな感じの展示会だ。

「人体標本展示会」であって「人体の不思議展」ではなかった。

魚屋をのぞいても、魚の不思議に出会うことはあまりないだろう。
せめて水族館に行かねばなるまい。

不思議と銘打つからには、生物学的な視点からの説明等をつけるべきだろう。


ところで、
人体の不思議展に対し、
人権等の視点から問題提起が起こったりしている様だが、
実際に展覧会場をのぞいてみると、
先に述べたように、そう言いたくなるのも分からないことではない。

人体の構造等を知るための標本としては、多少出来が悪い。

あれでは、人体標本として見せ物になっているだけだと
言われても仕方がない。

標本の為に人体を提供することになった方々の存在を
忘れてはならないと思う。

■ 2009年7月21日 ■

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