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たまねぎドレッシング

「今日のサラダには手作りっぽいドレッシングがかかってるなぁ
たまねぎをすりおろしたようなものが入っていて、
においもおいしそうな感じだぞ♪」


その日の昼食には、サラダがついてきた。
いつもは市販のドレッシングがかかっているが、
今回に限って手作りのドレッシングがかかっている。
誰が作ったのかはわからないが、
見た目はすごくおいしそうな感じだ。
…後で食べよう。


「やっぱりたまねぎをすりおろしたやつが入ってるみたいだなぁ
ただ液体だけでできてるドレッシングよりも
固形物が入ってるドレッシングのほうがいいよね♪」


しかしすごい量のたまねぎだ。
いいにおいがするがどんな味なんだろう…。


…ぱく。


「あ、意外と普通のドレッシングだった、
醤油がベースのドレッシングでほかにも何かが入ってる。
ちょっと甘みが強い気がするけど、
すりおろしたたまねぎがいい味出してる気がする♪」

「ん…?たまねぎが多かったのかちょっと苦いな、
ちょっとじゃないな だいぶ苦いな、
たまねぎを水にさらしたりしないでそのまま使ったのかなぁ♪」


そう、口に入れた瞬間はおいしかったんだ。
でも、ちょっと噛み締めたら甘みが強かったんだ。
もう少し噛み締めると意外と苦いことに気がついたんだ。
たまねぎ特有の、さっぱりとした苦味。ビターな大人の味かと思ったんだ。
でも、その苦味は思った以上に苦かったんだ。目がしみるほどに。


「なんだろうこの味は、今まで食べたことのない味だぞ♪」

そして、4口目くらいを口に運ぶときに気がついたんだ。
麺つゆみたいな香りがすることに。
一番近い香りは何だと聞かれたら麺つゆだ。
麺つゆの香りのドレッシング…。まあ許せないことはないかも。
でもなにやら苦くて甘いんだ。噛み締めるほどに。
苦い理由は想像がつく。たまねぎを水にさらさなかったんだろう。
そのほかに何を入れたのかはよくわからないが、
醤油が入ってることはわかる。
かめばかむほど味が変わって、だんだん苦くなる。
そんなこのドレッシングについて、ただひとつだけ知りたいことがある。
お世辞にもおいしいとはいえないが、
まずいと言い切れないこの味は何だ。


「ん〜、このドレッシング、もしかしてあの人が作ったのかな?
経験上、あの人ならこのおいしいとまずいの中間を行き来する
奇抜なドレッシングを開発する能力を持っていそうだぞ♪」


彼女は以前、すばらしい料理を作ってくれた。
野菜を使ったさっぱり煮という料理だ。
お酢をつかってさっぱりと仕上げる、体にもいいおいしい料理をだ。
しかし、彼女の作ったさっぱり煮は一味違った。
照りがでておいしそうな見た目から立ち上る酢の香り。
思わずむせ返るほどだった。
味はまずくないんだが、味が濃すぎた。
高血圧と糖尿病が織り成す絶妙のテイスト。
体にいいのを通り越して体に悪かった。
さっぱり煮のさっぱりを取り違えた味だった。
でも、不思議なことにまずいと言い切るほどまずくはなく、
それでいてお世辞にもおいしいとはいえない 至高の味だった。


「そう、これはデジャブ…なんだろう。
このドレッシングはあの人が作ったに違いないぞ。
食べればわかる。あの人が作った料理の味だぞ♪」


これを作っているところを見ている人がいるはずだ。
よし、彼に聞いてみよう…。


Aさん:「ああ、たまねぎをすりおろして入れたらすごく苦くなったから、
味を調整するために砂糖をいれたみたいよ」
「あと、味りんとか酒もいれてたみたいよ。
アルコール分はどうするのかって聞いたんだけどね」



「苦いのを砂糖を入れてどうにかするって言う発想が、
”春子さん、お味噌汁ちょっとしょっぱいんじゃありませんの?”
”お義母さま、はい お砂糖”
っていう感じだぞ♪」


彼女には薄めるという発想はないらしい。
彼女は、ただまっすぐに進んでいく。
振り返らずに、まっすぐ進むことで新たな道を発見するのだ。
この奇抜なドレッシングも彼女でなければ作れないであろう。
彼女がここで料理を作ることはあまり多くないのが残念だが、
型にはまらず、予想もつかないコトというのは
意外と面白いことであることがよくわかった。


「一ヶ月に一回くらいは食べてもいいかな♪」

よくわからないが、人生のいいアクセントになりそうだ。



後日、本人にどうやって作ったのかを聞いてみた。

本人:「たまねぎを入れたらすごく苦くなったから
砂糖とか味りんを入れたのよ。
前にBさんが作ってて おいしかったから作ったんだけど、
たまねぎとトマトを使って作るんだよね。
でもトマトがなくて苦かったから牛乳を入れたの。
あとお酒も入れたかも。あんまり覚えてないけど」


大変!もしかしたらただのあほかもしれない!救急車救急車!!
”腕白でもいい、たくましく育ってほしい”
こういう感じに育つことをこういうのだろうか。


○○さんはかわいいことするなぁ、あはは」と
笑ってあげられる包容力が必要なのだと感じました。

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