「じゃあ、奄美大島に行くか」
旅行には勢いが必要である。
そう、もともと私は自発的に旅行に行ったりはしない。
ただ、前々から妻がそこに行ってみたいと言っている。
色々と考慮すべきことを考えると、
今行かないと数年は行く機会がないかもしれない。
そこは父親の故郷で、私自身も一度しか行ったことはない場所だ。
道案内は出来ないが、とりあえず行ってみることにしよう。
奄美大島は鹿児島県南部の離島であるが、
羽田空港から奄美大島空港へ航空便が出ている。
一日一往復なので現地への往復で迷うことはない。
現地に行って、なんとなく島内を散策して来る。
これが漠然とした目的であって、それ以外の用事はない。
ついでに星は見てこよう。
周りに明かりが少ないので、さぞ星空がよく見えるだろう。
カメラもかなり役に立つ。
ただ、調べてみると「日本一日照時間が短い場所」のようだ。
星空は運任せだが、3日も居れば一日くらいは晴れる……はず。
そんな感じで、奄美大島に行ってきます。
☆
平成26年の3月某日、東京国際空港(通称:羽田空港)へはリムジンバスで行くことにした。
バスのりば が徒歩で行ける場所であるし、電車の乗換も面倒なのだ。
バスって滅多に乗らないけど、自分が車を運転して通る道と同じ道でも視点が違ってなにか目新しい。
バスで移動しただけでそれなりに楽しい。
そして、出かける時は「なにか忘れ物をしている」気がするものだが、
致命的なものは忘れていないのでなんとかなると言い聞かせながら先に進む。
「だって、もう戻れないもの」
ふむ、羽田空港内に入ったのは高校の修学旅行以来だ。
そして、飛行機に自分で手続をして搭乗したのは初めて。
オンラインでチケットは購入済み。
JALのメンバーズカードに加入してあって、
空港でタッチ・アンド・ゴー出来るということはわかっている。
でも、そもそも普通に手続きをするとどんな手順なのかは知らない。
いちおう説明のようなものは印刷してきたのだが…。
1.よくわからないけどタッチして、
2.手荷物は預ける方を先に検査するんだろうという勘で手荷物を預けて、
4.ちょっと早めに搭乗手続きしようと思って検査を受けて、
5.「8番ゲート」と言われたのに周りにあるゲートが二桁でホゲーと思いなながら8番ゲートに行って、
6.たまたま搭乗開始時間の1分前に「ここがゲートかな」と眺めていたゲートが開いたから搭乗して、
7.滑走路まで思いの外長い時間移動しながらやっと離陸した。
慣れてないって恐ろしい。
余裕を持って空港に来ていなければ危ないところだ。
空港ラウンジにも立ち寄ったけど、ゆっくりするほどの時間は取れなかった。
☆
往路のフライトは2時間25分(定刻なら)。
高度8,000mくらいを飛行していたらしい。
あれ、エベレストの山頂より低いじゃないか。
まあいいか。
今回の奄美大島旅行において事前に決めてきた工程は殆ど無い。
奄美大島空港付近でレンタカーを借りるところまでは決めた。
その先、島を一周してみたいとか、帰りはこの便に乗るとか、そんなことしか決まっていない。
☆
奄美大島空港に着陸するときにサンゴ礁がみえると思っていたのに、
雨天&反対側の窓側だったせいで見えなかった。
ぐぬぬ。
さて、奄美大島空港は羽田空港に比べるととても小さい。
迷うこと無く手荷物を回収・先に来ていた父親にも遭遇できた。
この父親、私達が奄美大島に行くと連絡したら、自分も行くことにしたらしい。
ただ、日程の関係で先に付いていて、この翌日先に帰るらしい。
奄美大島ではPHSの電波が通じないところが多く連絡が取れないままだったが、
一日一往復の空港便に合わせて現れれば簡単に会えるということだ。
奄美大島ってそんなところ。
お腹が空いてから気がついたのだが、当日の予定に昼ごはんを考慮していなかった。
スッカリ忘れていた。
お昼ごはんの存在を父に教えられ、一緒に鶏飯のお店に行った。
鶏飯は奄美大島や沖縄県の郷土料理だ。
奄美大島の「けいはん」を大雑把に言えば
「ご飯に具・薬味を載せて鳥のスープを掛けて食べる料理」だろう。
シンプルなので不味く作ることは困難である。
つまりそれなりに美味しい。
パパイヤの漬物も本土ではお目にかかれない食べ物である。
この御店の鶏飯は、ご飯がオヒツで出てきてスープも大鍋にいっぱい入っている。
ここで出来るだけ栄養を摂取しておこう。
もぐもぐ。
☆
その後、親戚の家におじゃますることにしたのだが、(自分の中で)事件が起こった。
「この道、通ったこと有る!」
親戚の家に続く道に見覚えがあるのだ。
前回来たのは3歳か4歳位だったと思うのだが、覚えている。
親戚の家も漠然と覚えている。
方言の激しいおばあさんが居て、何を行っているのか全くわからなかったことも。
そして、おもてなしで頂いた料理を食べて分かった。
自分でも作れるはずの「豚の角煮」の味が自宅と現地でなぜこんなにも違うのか。
醤油が違う。だいぶ甘味が強い、奄美だけに。
正直言えば刺し身には合わないと思うこの醤油。なんせキレがない。
でも、豚肉には絶妙に合う。
この甘味が素材を優しく包み込んで全体をマイルドにしているのだ。
うぬぬ……。
親戚の家でも写真はとったが、個人情報なのでとても載せられない。
色々とお世話になったし、何がしかのお礼を含めて今度写真などを送ることにしよう。
☆
ホテルは島の北部、ネイティブシー奄美という海の見えるホテルに予約をしてある。
中心街から離れているので晴れていれば星もよく見えるはずだ。
朝起きたら雨は止んでいたが曇っている。
晴れていれば海の色がもっときれいだろう。
そして思い出した。忘れ物を。
奄美大島の観光案内の本を忘れてきた
ま、まあ、そこに海もあるしNexus7で調べることもできるしなんとかなるだろう。
PHSは通じないが、ドコモ利用のMVNOはそれなりに通じるようだ。
ホテルの前は倉石海岸というらしい。
どの程度有名なのかは知らない。
風邪が強く、肌寒い。
自宅を出た時と同じ服装でちょうどいいとは思わなかった。
海岸に人は居ない、いや一人いる。
よく見たら父親だった。
これから帰るので寄ったらしい。
ホテルの場所は伝えてあったが、野生の勘で海岸に現れうとは思わなかった。
なんで海岸にいることがわかったんだ……。
ホテルからは海がよく見える。
それほど吟味して選んだわけではないが、結果的にはおすすめのホテルを選択したようだ。
奄美滞在2日目は島を一周するのが目標だ。
島のサイズはよくわからないが、昨日親戚の皆さんが見て回るなら一日で十分と言っていた。
適当に出発することにする。
☆
今日は風が強い。そして 寒い。
写真と合わせて動画も撮ってみたが、すごい風だ。
200キロほど走って確信した。
一日で一周することは出来ない
海沿いをドライブして島を一周なんて漠然と考えていたが
まだ半分くらいしか来ていない。
太い道を使って引き返さないと、ホテルに着くのが真夜中になってしまう。
真っ暗な海岸沿いを走ってもしょうがないし戻ろう……。
という感じで、2日目は島を北側から反時計回りに走り南側に着いたところで戻ってきた形だ。
と言っても無駄に過ごしたわけではない。
海岸の表情は場所によって大きく異ることがわかった。
砂浜だったり岩場だったり、穏やかだったり荒れていたり…。
ところどころに集落があった。
町というほど大きくない。
海沿いの僅かに開けた土地に人々が住んでいる。
調べたところ奄美大島は人口7万人程度らしい。
島の面積は沖縄本島の59%なのに人口はその約6%。
島の大部分が起伏の激しい土地であるがゆえだろう。
しかし、海沿いの道なのに車が殆ど通らない。
きれいな海岸なのに人が居ない。
ここが観光地ではないのかそれとも季節柄人が居ないのかもわからない。
カーナビに表示されない道が多数ある。
気さくに小道へ入ると遭難しそうで深追いできない。
近いのに遠い自然。
「道路」や「車」などの文明の力が無ければ行きていけないという無力さ、
「動かぬ自然の脅威」を感じることが出来た。
もう少しサバイバル能力を身につけないといけない。
奄美大島に住む人々の暮らしをほんの少しだけ垣間見た気がして、
やはり観光地巡りよりも人々の生活に触れられるような観光をしたいんだなと再確認できた。
曇っていたけど、雲の隙間から星は見えた。
落ちてきそうな夜空ってほどではなく、
また風が強くて凍えそうだった。
星空観察は夏場が良い。
☆
三日目、もう一度南へ向かい、昨日回れなかった岩がゴロゴロする海岸と
マングローブ林を見に行くことにする。
昨日よりも目的意識の有る日だ。
しかし、信号待ちで止まっている車の後につくと「渋滞している」と感じてしまう。
そのくらい、昨日はクルマがいないところを走りすぎた。
ここはハートがみえる風景 という場所。
海がハート型に望めるらしい。
そしてここがホノホシ海岸。
握りこぶし大の石が海岸沿いを埋め尽くす、他にあまりみないような海岸だ。
波が引くときにガラガラと音を立てるのがとても印象的で、
以前に来た時に衝撃を受けたことを覚えている。
またここに来てみて、奄美大島で一番来たかったところはここだったのだと確信した。
マングローブ林は…、上から見るだけじゃ面白くない。
マングローブパークも、高齢者の集いのような場所だった。
写真は展望台から撮影したが、展望台そのものは廃墟のような佇まい。
カヌーに乗るためだけに訪れる場所だった。
ちなみに、マングローブという木が生えているわけではない…。
ああ、真っすぐ行って帰ってくるだけで150キロ。
ちょっと寄り道したり買い物したらあっという間に200キロ。
なかなか厳しい。
島の南東側の海沿いはほとんど走れなかったけどもう時間切れ。
未だに北部を散策していないので4日目は北部に行くことにしよう。
そしてかなりお疲れなので、晩御飯はホテルのレストランで摂る。
珍しい食材(ハリセンボンとか)の料理があって楽しめた。
写真もとったけど、料理の写真を公開するのは避けておく。
☆
4日目、見たい場所は「奄美大島の北部」と「奄美パーク&田中一村記念美術館」だ。
しかし飛行機の時間があるのでのんびりはしていられない。
この辺りは奄美大島北部の海岸。
どうしていく場所行く場所こうも趣が異なるのか…。
北部は平地が多くてサトウキビ畑がたくさんある…と
Nexus7君が教えてくれたのだが、平地ばっかりなわけではない。
奄美北部の先端に行こうとしたら、そこは今までで一番の悪路であって、
また波打ち際は崖の下だった。
ナビにない道を降りていくのも怖い。
アスファルトが敷かれた山道で、いつ道がなくなるかとドキドキした。
でも無事に通過して奄美パークへ。
美術館の写真は撮影できないので、そこに生えていた植物を撮る。
田中一村の絵にも出てくるビロウという植物だ。
パークそのものは旧奄美空港を再利用したものらしく、観光地を感じさせる場所だった。
奄美を大雑把に一周して最後に訪れたので、
奄美大島の総復習を行えるいい場所として利用できた。
奄美パークは奄美大島空港のすぐ近く。
あとは帰るだけになってしまった。
☆
奄美空港でも搭乗手続きの基本は変わらないらしい。
タッチ・アンド・ゴーで始まり、手荷物を預けて、保安検査を受けて、搭乗。
コンパクト(狭いともいう)なのでとっても簡単。
あれ…、帰りは景色が違う…と思ったら、
高度10000mだった。
偏西風に乗って飛ぶため高度が高く、結果として所要時間も短い。
1時間50分(定刻)だ。
フライトも短いし、滑走路まで移動する時間短い。
帰りは本当にすぐ付いた気がする。
ただし、羽田空港について愕然とした。
広すぎる。どこへいけばいいんだ。
搭乗手続き後にウロウロした場所と同じフロアに到着したような気がする。
手荷物をどこで受け取るのかわからない。
奄美ではすぐに分かったが……。
機内からほとんど最後に降りたせいで人の流れに沿って移動することも出来ず、
とりあえず「到着」と書かれた方に進んだ。
「ここを過ぎると戻れません」とか何とかというところを抜けるとそこが手荷物受取場だった。
慣れないというのはほんとうに怖い…。
帰りもリムジンバスを利用する。
首都高が事故で渋滞しているとか何とかで1時間くらい余計にかかるようだが、
時間上の問題は無いのでゆっくり帰ることにしよう。
バスの時間まで、空港のラウンジでしばし休息して帰ろう。
☆
自宅についてから気がついた。
いたるところで見かけたこの花のようなモノ。
よく見たら根本にバナナが生えてる。
バナナの花じゃないか。バナナそのものが保護色だったせいで気が付かなかった……。
奄美大島は思いのほか大きく、三泊四日では回りきれなかった。
今度はもっと長い期間で訪れてみたい。
神奈川県ではわからない、南の島の何かがそこに有る。
日常にない「何か」を少しづつ発見すること、それを冒険と呼ぶのかもしれない。
■ 2014年3月17日 ■