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2008年フレンチレストランディナー物語

2007年の末頃、知り合いの女性からこんなものをもらった。
クリスマスプレゼントのようだ。
封筒のようなもの
どこから見ても封筒である。
その場で開けたほうがよさそうだったので、
その場で中を確認した。
中にはクリスマスカードらしきものが入っていた。
中にはクリスマスカードらしきものが…

クリスマスカードに見えるその物体には、
あだ名で大きくこう書いてある。
「○○○○○へ」
カード表面

「手紙か!?何だ!何が書いてあるんだ!?」
正直、何が書いてあるのか想像が付かず、
カードを開くとき多少 手が震えた。

そっ(開く音)

カード中面

ディナー券だった。
なんだか分からないが安心した。

どうやら、ディナーをおごってくれるというクリスマスプレゼントらしい。
予約にて日程調整が必要らしい。
そして2名様でのディナーらしい。

差出人は「○○○っち(あだ名)」らしい。
表面と裏面

これが、2008年フレンチレストランディナー事件の始まりである。


「ああ、ディナーか、何だぁ」(何かにすごく安心している人)
一目見てそう思ったこのディナー券。
センスがすばらしい。
「ディナー券です」
この二つ折りのカード自体がディナー券なのか、
別に存在するディナー券を挟み忘れたのか分からない。

「これ自体がディナー券ですか?」
そんなことは聞けない。
きっとこれ自体がディナー券なのだ。
きっと彼女の家で夕ご飯をご馳走してくれるという意味なのだろう。
準備等があるから日程連絡が必要なのだ。
本人とで2名様までという意味なのだろう。

彼女はまえまえから
「家の照明器具をつけたいけど天井に届かない」
という話をしていたことがある。
照明器具の取り付けをかねて夕食をご馳走してくれるという意味なのだろう。
多少疑問が残ったが、
予約(?)をする際に聞けばよいだろうと思いそのまま受け取った。


後日、ディナー券の件で連絡を取った。
どうせならば早いほうが良いだろうと思い相手の予定を聞いてみたりした。
しかし、どこか話がかみ合わない。
いろいろと聞き出してみて、
かなり間違えていたことが分かった。
・ディナーは彼女の家で行われるわけではないらしい。
彼女の話を箇条書きにしてみるとこんな感じだ。
・場所としては横須賀中央らしい。
・普通のレストランでのディナーらしい。
・2名様に彼女は含まれていないらしい。
・誰か好きな人を誘って行ってくれということらしい。
・お金は彼女が負担してくれるらしい
「意味が分からない」
頭の中に疑問符がたくさん現れた。

何度かにわたって根掘り葉掘り聞き出したところ、
やっと彼女の意図が分かってきた。
簡単にまとめれば、「おいしいレストランが横須賀中央にあり、
そこでのディナーのお膳立てをするから、好きな誰かを誘って行ってみて
ということのようだ。
あの「ディナー券」では、何も分からない。
あれっぽっちの情報で誰を誘えるというのか。
場所も時間も内容も、詳細がまったくもって不明だ。
何といって誰を誘えと言うのか。

だいぶその件でストレスがたまってきていたので、
この際ディナーの件は無かったことにするつもりでもう一度はなしをした。
その結果、結局その彼女と2人でディナーに行くことになった。
話の途中で電話を切ろうかと思うことが何度かあったのは秘密だ。

日程調整の結果、
ディナーは2008年のある土曜日の18:00からで、
最寄の駅に17:40頃集合ということになった。
ただ、当日彼女の状況によっては
集合場所が変更になるかもしれないとの事だ。
また、特にドレスコード等は無いお店のようだ。

うーん、新しい鞄と靴がほしかったんだったなぁ。
せっかくレストランに行くんだしこれを機に買うことにするか。うむ。
あれ、昨年物を買いすぎた話をしたばかりなのにもうこんなに使ってる…。
「1,2,3,4,5,6…。キャー」


当日、やはり予定は変更になった。
彼女は近くに車でくる用事があったらしく、
家で待っていてくれれば拾いに行くという内容のメールが来た。
時間はかかれていなかったが、1時間前の17:00頃に来るだろう。
しかし、彼女は2時間前に来た。
出かける準備中でお風呂に入っているときに来た。
もう玄関まで来ているというので、居間で待ってもらうことにした。
人を家で待たせて自分は出かける準備だなんて
今までにないシチュエーションだ。
いろいろと準備があったのでだいぶ待たせてしまったが
何とか(自分としては予定通りの時間に)出発した。

道が混んでいたため、予定よりちょっと遅れながらも横須賀中央に到着。
4時間で300円という駐車場に車を止めてレストランに向かった。
この人はマイナーな駐車場を良く知っている。
個人的には電車で行くほうがすきなのだが、
車で迎えにこられては手の施しようが無い。
レストランまでは徒歩で5,6,7,8分だった。

歩きながら彼女を見てみると、例のごとくピンクのコートを着ていた。
そこはいつもと同じなのだが、今日はそれ以外の部分がいつもと違う。
今日は珍しく化粧をしていて、さらにスカートをはいている。
スカートを履いているのを見るのは2度目だ。
他の人には「スカートを履いていると女性らしく見える」といわれるらしい。
突っ込みどころが多すぎてコメントしづらい。

急いでいる為か、彼女の歩くペースは早い。
隣を歩くよりは見失わないように追尾する感じだ。
道行く人をごぼう抜きにしながらも
レストランには10分遅れの18:10分に着いた。
ちょっと遅れているが誰も気にしないらしい。
レストランはこじんまりとしたお店で、
15人も入れないような広さだ。
先客は1名だけ。
静かに食事が出来るお店だと聞いていたが、
本当に静かだった。
今回ディナーを食べることになったこのお店、
名前はあえて伏せるが、フランス料理のお店である。
今日はフレンチのコース料理が出るらしい。
でも、テーブルにセットされているカトラリーが
スプーン、フォーク、ナイフの三本だけだ。
皿も1枚だけ置いてある。
このセットでコース料理を食べられるのだろうか。
それ以前に、
それらしか置かれていないのにもかかわらずテーブルが窮屈だ。
ここでフレンチのコースを食べられるのか。
いろいろな意味でドキドキのコース料理が始まった。


料理の内容はシェフにお任せするらしい。

どうせあるものしか出ないのだ。
シェフでも誰でも好きに選べばいい。
ただ、飲み物だけは自分で選ばなければならない。

まあ、彼女には運転もあるし、
特に必要とも思わないのでアルコール類は頼まない。
そうするとソフトドリンクの類しかないのだが、
ソフトドリンクの選択肢が3択であった。
ウーロン茶、オレンジジュース、ジンジャーエール。

「どの飲み物がフレンチに合うんですか?」

本格的なフレンチは初めて食べるが、
どれも合わない気がする。

以前彼女から聞いた話では、彼女はオレンジが嫌いらしい。
そうなるとウーロン茶かジンジャーエールの2択だ。
まあウーロン茶にしよう。
きっとヤツはジンジャーエールを選ぶ。

最初に来た料理は「サーモンのサワークリーム」だ。
本格フレンチとの事で、
料理が運ばれてきた際にスタッフの方が料理の名前をつぶやいてくれる。

サワークリームに細ギリのサーモンを円筒形に纏められたものを載せ、
そこに細かく切ったきゅうりと小さいイクラを載せた料理だ。
クリームの周りに木の実のようなものもいくつか添えられている。

やわらかいサーモンの舌触りと
シャクシャクしたきゅうりの歯ごたえが絶妙のバランスだ。
サワークリームの程よい酸味と木の実のアクセントが
それをさっぱりと食べさせてくれる。

「ふむ、ウーロン茶との相性は最悪だ」

サワークリームのすっぱさとウーロン茶の渋みが
舌の上で地獄の協奏曲を奏でる。
明らかにミスチョイスだ。

まあ、そんなものは一緒に飲まなければいいだけだ。

料理単品ならばさっぱりした味でもう少したくさん食べたくなる。
このちょっとの量がいいのだろう。
次に続く料理をよりよく受け入れる為の料理なのだ。

次に出てきたのは「エスカルゴの小さなポット」だ。
直径4センチ、高さ5センチ程度の陶器の器に
刻んだエスカルゴとグリーンのソースをいれ、
オーブンで熱々に焼き上げた料理だ。
フランスパンにつけて食べるらしい。

エスカルゴというのは初めて食べる。
積極的に食べたいとは思わないが、
コース料理で出てしまったら食べないわけにも行かない。
普通に食べよう。

エスカルゴ。これは獣肉にも魚肉にも似ていない。
あえて言うならば、まったく筋肉質ではない貝柱という感じだ。
それほど癖の無い味で、淡白という言葉が似合う食材だろう。

「熱すぎて上あごを負傷しました」
やけどした。
少ないウーロン茶ではやけどを癒せなかった。

柔らかい食感のエスカルゴは薄い塩味のソースに良く合う。
フランスパンの柔らかい部分につけて食べるととてもおいしい。
見た目もグリーンのソースの色合いが良く、
エスカルゴを食べたことの無い人間に初めて出す料理として、
拒否感も生まれにくい出来でとても食べやすかった。

次に出てきたのは「フォアグラのココット」だ。
フォアグラのムースをココットに入れ焼いて冷ました(?)ものに
薄い飴を伸ばし、バーナーで飴を焦がしぱりぱりにした料理だ。
熱くもなく冷たくもない。

飴は本当にサクサクしていて中のムースに新しい触感を与えている。
フォアグラも初めて食べるが、
滑らかなムース仕立てで食べやすい。
飴に入った塩分がアクセントになり、
悪く言えば単調な味のムースを良く引き締めている。

「パンにつけて食べるとおいしそう」

それではただのレバーペーストになってしまうが、
飴の存在がレバーペーストから一つの料理へと昇華させている。

熱い状態では飴が溶ける。
冷たい状態では生臭さが出る。
微妙な温さも計算のうちだろう。

次に出てきたのはスープだ。
「キノコのクリームスープ」
正確にはポタージュなのだろう。
キノコをペーストにしたものを何かのスープでといたような料理だ。
クリームで描かれた5〜6重の円の中にクルトンが浮いている。
やさしい塩味にキノコのほのかな香りが漂う。

「何のキノコですかねコレ」

キノコのクリームスープで間違いは無いが、
具体的なキノコ名が知りたい。
もしくは「5種のキノコのクリームスープ」などと
ネーミングを考えたほうがいい。
だいぶ気になる。
しいたけではないようだが…。

それにしても、恐ろしいほどに色合いが悪い。
灰色のポタージュに白と灰色と黒の粒粒が浮かぶこのスープ。
クリームで輪を描かなければとても人前に出せない。
入れ物がバケツだったら誰も食べ物だとは思わないだろう。

次はお魚料理。「スズキのポワレ」だ。
フライパンで油をかけながら焼いたと思われるスズキだ。
中はしっとりで外はカリッと焼きあがったスズキを、
ピンクのクリームソースと角切りパプリカなどの野菜の上に載せた料理だ。

余計な味付けのされていないスズキに、
これまた薄い味付けのクリームが良く馴染む。
角切りの野菜も、スズキの風味を壊さずに存在している。

「スズキの表面がちょっとカリカリすぎるかな」

フォークがスズキを切る前に、
野菜の土台が崩れスズキがソースに埋没してしまう。
もう少しやわらかく解体できれば、
それぞれを独立した状態で口に運べるのだが…。

ピンク色のソースは生クリームが主体であるが、
アサリなどに感じられるような、貝類独特の風味が付いていた。
スズキの白身魚的な香りをよりよい方向へ導いてくれる。


次はメインディッシュの「子羊のトリュフソース」が運ばれてきた。
レアに焼き上げた子羊の肉に、
トリュフをちりばめたソースがかけられている。
添えられたポテト、小玉ねぎ、にんじんが彩を良くしている。

子羊も初めて食べる食材だ。
子羊…、豚よりは牛に近い食感だ。
しかし、牛肉のように出汁をとってどうにかできるような味ではなく、
鶏肉のささみのようなさっぱりとした味だ。
子供であるが故の未熟性という味かもしれない。
牛肉では箸休めの付け添えが必要だが、この子羊には必要が無い。

キリスト教では自身を子羊にたとえる話があるが、
彼女の実家では子羊などの動物を育てていたらしい。
「クリスマスのたびに七面鳥がいっぴき一匹といなくなって、
正月のたびに七面鳥がいっぴき一匹といなくなって…」


それはそうと、
羊は大人になると脂身が独特の香りを持つようになるらしい。
いわゆるマトンは大人の羊で、ラムが子羊である。
乳歯が生え変わったか否かがその境であるらしい。

そんな話をしたところ、
彼女「詳しいのねぇ」と言っていた。

「子羊の肉を発酵させて造ったお酒がラム酒なんですよ」
「…」

一瞬でうそがばれました。

この子羊、付け合せの野菜がとてもおいしい。
子羊はなんだか肉質が硬くナイフで切りにくいが、
野菜は素直でたべやすい。

でも、不器用な彼女に子玉ねぎは荷が重いらしい。
子玉ねぎが逃げてしまってフォークが刺さらないのだ。
しょうがない、食事介助をすることにしよう。
「こーやって、こーするんですよ」
はい、良くできました。

トリュフソースはよく分からない味だった。
子羊の血のソースなのかもしれない。
肉を切るときに出た真っ赤な肉汁と似たような味だった気がする。
トリュフ自体もおいしい消しゴムの様だった。

最後はデザート。
「オレンジのレアチーズケーキと抹茶アイス」だ。

オレンジ!
彼女が嫌いというオレンジ!

「俺んちのレアチーズケーキかぁ、自家製ですねぇ」

とてもごまかせそうに無い。
きっとすごく嫌いなのだろうが、何とか食べている。

ぱっと見るとデザートらしいが、
チーズケーキはどこかからか仕入れてきたような作りだ。
アイスクリームも、付け合せのフルーツもそうだ。
きっとデザートの作り方は知らないのだろう。
明らかにオリジナリティが無い。
ただの盛り合わせだ。

飲み物もそうだったが、分かっていないのだろう。
コース料理は一人では作れないのだ。

食後にはコーヒーが出てきた。
さすがにインスタントではないが、
ただ「コーヒー」という説明のみだった。

このレストランのWEBサイトでは、
本格フレンチを謳っている。
本格であるならば、料理を出す際にその名前のみではなく
料理の詳細を説明するべきだろう。

どこで取れた食材なのか、どのように調理したのか、どんな味付けなのか、
説明が必要なことはたくさんある。

今日の料理に合う飲み物は何なのか、
料理の締めに登場するデザートの意味は何であるのか。

個々の料理はそれなりであったと思うが、
全体としてはコース料理の体裁が整っていなかったと思う。
所詮1人ではフレンチのコース料理は完結できないのであろう。

とてもお勉強になる1時間40分でした。


さて、このレストラン。
静か過ぎて、食後にはひそひそ話しか出来そうにない。
なんとなくつらいのでさっさと店を出て、駐車場にもどる。

レストランに向かうときは道行く人をごぼう抜きにしたが、
帰るときは逆にどんどん追い抜かれている。
この人、2人で歩いてても自分のペースだけで歩いてる気がする。
あまりほかの人のことは考えないらしい。
そんな事を言っても、
「ああ、そういうもんなんだぁ〜
そんなこと考えてないなぁ〜」

という返答が帰ってくるだけなので言わない。

この後どうするのかを聞いたところ、
今度は駐車料金のかからない所に移動するらしい。
どこだかは不明だが、素直に車に乗り込む。
思いも寄らない場所にいくことはあるまい。


車に揺られながらもどこに行くのかと思っていたら、
職場の近くのファミリーレストランに向かっているとの事だ。
ドリンクバーのある店が好みらしい。
確かに駐車料金はかからないし、
ファミレスの方が雑談をしやすい。

どのファミレスにするかを少し迷い、
結局21時過ぎにとあるファミレスに落ち着いた。

仮にもレストランではあるが、
すでに食事は済んでいるのでデザート類を食べることにした。

彼女はオーブンで焼いたフレンチトーストにアイスが乗っているようなやつで、
私はかぼちゃプリンのパフェのようなものを頼んだ。

なんとなくカルシウムがほしくなったので、
きびなごのから揚げのサラダも頼んでみた。

はじめに私のパフェが届いたが、
先に食べ始めるのも気が引けるためドリンクバーを取りに行った。
ドリンクバーにココアが無い。
ものすごく残念だ。

もどってみると、彼女がパフェの脚に手を添えてくるくる回している。
人のパフェが気になるらしい。
「後ろだけじゃなくて前からも見てみたかったから」
なんだろう、分けてほしいのかしら。
でも分けてあげない。
本人はきっとそんなことは考えずにくるくる回しているのだから…。

彼女のトーストのようなものも来た。
すごく熱いらしい。
この手のデザートは得てして当たりはずれが大きいのだ。
そして大抵ははずれなのだ。
彼女はなにやら首をかしげながら食べている。
それほどおいしくないらしい。

「そのプリン、かぼちゃなの?」
「そのアイス、かぼちゃなの?」


やたらとパフェが気になるらしい。
分けてほしいのかもしれない。
でも分けてあげない。
きっと本人は分けてほしいことに気がついていないから…。

そんなこんなで、いろいろな話をした気がする。
今日はいつに無くプライバシーに踏み込んだことを聞いてしまった。
あまり聞きすぎるのもアレかと思ったが聞いてしまった。
いかんいかん、良く分からない負担が増えていく。

23時半くらいには切り上げて帰らないといけないよなぁと思いながらも、
24時になり、1時になった。

このままだと閉店かもしくは明け方まで話を続けてしまいそうだと思い
そこで切り上げることにした。
もっと早く切り上げなければいけなかったのだが、
話が長引いてしまったのだからしょうがない。
うむ。


結局 車で家まで送ってもらい、そこで分かれた。

この人と話をしていると、なぜか時間がどんどん流れていってしまう。
かなり危険だ。

もう少し早く切り上げる方法を考えないといけない。


「そうか、ディナーじゃなくてランチから話を始めればイインダ!」
あれ、なんか違うかな…。

■ 2008年1月23日 ■

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